フレイル、サルコペニア、ロコモティブシンドロームをご存知ですか?
2024.6.10
高齢化社会の進展に伴い、高齢者が直面する健康問題に対する関心が高まっています。特に「フレイル」、「サルコペニア」、「ロコモティブシンドローム」は、それぞれが高齢者の生活の質(QoL)を著しく低下させる可能性がある重要な健康課題です。これらの症状を適切に理解し、効果的な対策を講じることが、自立した生活を維持するために必要です。
目次
フレイル
サルコペニア
ロコモティブシンドローム
各症状の関係
最後に
フレイルは、高齢者において身体的、心理的、社会的な機能が低下し、健康状態が脆弱になることを指します。この状態は、体重の減少、疲労感、筋力の低下、活動量の減少など多岐にわたる症状を含みます。フレイルは単一の疾患ではなく、多様な健康問題が複合して生じる状態であり、これによってさらに健康が悪化するリスクが高まります。
●診断基準※1
日本版フレイル基準では、下記の5項目のうち3項目以上該当するとフレイル、1項目または2項目に該当するとプレフレイル、いずれも該当しないものを健常とします。
- 体重減少:6ヶ月で2kg以上
- 筋力低下:男性28kg未満、女性18kg未満
- 疲労感:(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする
- 歩行速度の低下:1.0m/秒未満
- 身体活動の低下:軽い運動または定期的な運動をしていない
●対策
フレイルの予防および管理には、栄養バランスの良い食事、定期的な適度な運動、社会的交流の維持が効果的です。これらの対策は、虚弱化の進行を遅らせることができるだけでなく、全般的な健康状態の向上にも寄与します。
サルコペニアは、主に高齢による筋肉量の減少と筋力の低下を特徴とする症状です。筋肉の質の低下も含まれ、日常的な動作が困難になることがあります。サルコペニアは自然な加齢プロセスの一部として起こりますが、適切な生活習慣によってその進行を遅らせることが可能です。
●診断基準※2
現在、日本サルコペニア・フレイル学会で推奨されているのは下記の診断基準です。
- 握力の低下:男性で握力28kg未満、女性で18kg未満
- 5回椅子立ち上がり:12秒以下
- 身体機能の低下:歩行速度が1.0m/秒以下
- SPPB:9以下
- SMI:男性で7.0kg/㎡、女性で5.7 kg/㎡
SPPB:バランステスト、4m歩行時間、椅子からの5回立ち上がり時間の3項目を点数で評価したもの
SMI:両腕脚筋肉量(kg)/身長(m)²
●対策
サルコペニアの予防と対策には、タンパク質を豊富に含む食事と筋力トレーニングが中心です。特に、重量を使ったトレーニングが筋肉の量と機能を維持、向上させるのに効果的であり、フレイルやロコモティブシンドロームのリスクを減少させる効果もあります。
ロコモティブシンドロームは、運動器の障害により、基本的な動作能力が低下する状態を指します。これには筋肉だけでなく、骨や関節の機能障害も含まれ、痛みや動作の不安定感が特徴です。この状態は、日常生活の自立性を著しく損なうことがあります。
●診断基準※3
ロコモティブシンドロームの診断は、運動機能の低下をチェックするための「ロコチェック」や「ロコモ度テスト」などで行われます。
ロコチェックは、片脚立ちで靴下が履けないなど、下記7つの項目に当てはまるかを確認します。
- 片脚立ちで靴下がはけない
- 家の中でつまずいたりすべったりする
- 階段を上るのに手すりが必要である
- 家のやや重い仕事が困難である
- 2kg程度(1Lの牛乳パック2個程度)の買い物をして持ち帰るのが困難である
- 15分くらい続けて歩くことができない
- 横断歩道を青信号で渡り切れない
ロコモ度テストは、立ち上がりテスト、2ステップテスト、ロコモ25からなり、運動機能を詳細に評価します。
- 立ち上がりテスト:座った状態から片脚または両足で手を使わずに立ち上がれるかを評価
- ステップテスト:大股で2歩歩いた幅を身長で割った「2ステップ値」を測定し、歩行能力を評価
- ロコモ25:身体の状態や生活状況に関する25の質問に回答して評価
これらのテスト結果に基づいて、ロコモティブシンドロームのリスクを判断し、対策を講じます。
●対策
ロコモティブシンドロームの管理には、定期的な運動療法が有効です。適切な運動プログラムにより、関節の柔軟性と筋肉の強度を向上させ、日常生活の動作を支援します。また、痛みがある場合には、医療機関での適切な治療が必要です。
・各症状のまとめ
状態 | 症状説明 | 予防・対策 |
フレイル | 全身の虚弱、活動限界 | 栄養と運動、社交活動 |
サルコペニア | 筋肉量・筋力の減少 | 高たんぱく食、抵抗トレーニング |
ロコモティブシンドローム | 運動器の機能障害 | 運動療法、関節保護具、痛み管理 |
これらの状態は高齢者の健康問題として個別に考えられがちですが、実際には密接に関連しています。
●フレイルとサルコペニアの関係
サルコペニアは、筋肉量および筋力の減少を特徴としますが、この状態が進行すると全身の筋力が低下し、フレイルのリスクが高まります。筋肉の減少は、日常的な活動を困難にし、疲労感や活動量の減少を引き起こします。これにより、フレイルの典型的な症状である体力の衰えや活動限界が現れます。
●サルコペニアとロコモティブシンドロームの関係
サルコペニアが進行すると、筋力の低下が顕著になり、これがロコモティブシンドロームの発症を引き起こす要因となります。運動器の機能が低下することで、歩行や立ち上がりといった基本的な動作が困難になります。特に、筋力の低下が骨や関節の健康にも影響を及ぼし、ロコモティブシンドロームの症状が悪化する可能性があります。
●フレイルとロコモティブシンドロームの関係
フレイルは身体的な虚弱状態を意味し、全身の筋力や持久力が低下するため、ロコモティブシンドロームのリスクも高まります。運動器の機能が低下し、移動能力が制限されると、日常生活での活動がさらに困難になります。この結果、フレイルの症状が悪化し、悪循環に陥ることがあります。
フレイル、サルコペニア、ロコモティブシンドロームは、それぞれが高齢者の生活の質を低下させる潜在的な健康問題です。これらの症状を正しく理解し、適切な予防策を講じることで、健康で活動的な高齢期を送るための準備ができます。高齢者だけでなく、その家族やケア提供者にとっても、これらの情報は非常に重要です。それぞれの症状に対する理解を深め、早期からの対策を始めることが、より良い高齢期を迎えるための鍵となります。
出典
※1 公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット:フレイルの診断
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/frailty/shindan.html
※2 公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット:サルコペニアの診断
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/frailty/sarcopenia-shindan.html
※3 公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット:ロコモティブシンドロームの診断
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/locomotive-syndrome/shindan.html